■はじめに:この記事は「5分」で読めます
マンション管理組合の理事会で必ず挙がる議題、「点検会社の見直し」。 「メーカー系は高いから、独立系に変えてコスト削減しよう」 「いや、安かろう悪かろうで事故が起きたら怖い」
この議論が平行線をたどるのは、比較の軸が「金額」と「漠然とした安心感」しかないからです。
私は10年以上、機械式駐車場のメンテナンス現場に携わってきました。 メーカー系の厳しい管理基準で運用されている現場も、独立系の柔軟な対応で運用されている現場も、両方を「作業する側の視点」で見てきました。
※点検業者やメンテナンス契約の見直しが不要な方はこちらをぜひご確認ください。【現場の告白】なぜ?修繕費用を払い続けているの管理が楽にならないのか。機械式駐車場が抱える「構造的な矛盾」
その経験から断言できるのは、両者の違いは技術力や誠実さではありません。 「安全に対する『物差し(判断基準)』が違う」ということです。
この記事では、現場で実際にどのような基準の違いがあるのかという「一次情報」をお伝えします。 これを読めば、あなたのマンションが「どちらの物差し」を選ぶべきか、自然と決まるはずです。
これは優劣の話ではありません。
私が下請けとして両方の現場に立ってきた中で、
「現場からの情報をどう交換提案に繋げるかの違い」を整理しています。
※本記事では、実務上もっとも相談が多い「メーカー系フルメンテナンス契約」と
「独立系POG契約(都度修繕)」という価格帯と運用思想が最も離れた2パターンを例に比較しています。実際には、メーカーPOG契約や独立系フルメンテ契約など中間的な選択肢も存在しますが、
この記事では「判断基準の違い」を最も分かりやすく伝えるため、あえて両極端のケースを取り上げています。私は、4つすべての契約形態の現場に立ってきました。その上で、実際にトラブルになりやすいのは
「どの業者か」よりもどの運用思想で契約しているかです。
■現場のリアル:同じ部品を見ても「答え」が変わる理由
例えば、設置から10年が経過し、少し動作音が大きくなってきたモーターがあったとします。 この時、メーカー系と独立系では、現場作業員の報告を提案に変換する考え方が全く異なります。
【メーカー系の提案判断】
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基準: 「本来あるべき新品の状態(100点)」を目指して保全周期のスケジュールまで考える
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判断: 「異音あり。交換推奨時期も過ぎているため、交換の提案開始。」または、「次の周期は他の部品が待っているから今年は見送り、来年提案」
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理由: 彼らの商品は「絶対的な品質保証」です。「最適な交換周期を守ってお使いいただければ安心して使い続けられます。」その為、一連のサイクルをシステム化した交換を提案するのが彼らの正義です。
【独立系の提案判断】
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基準: 「実用上の安全性(合格ライン)」をクリアしているか
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判断: 「異音はあるが、電流値も正常で発熱もない。緊急対応発生時に報告書には記載していく」
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理由: 彼らの商品は「コストと維持のバランス」です。使える部品は限界まで使い、オーナーの出費を抑えることが、彼らの評価に繋がります。報告書上には交換おすすめなどの特記事項が並びますが、オーナーは緊急性が低い部品の交換提案が押し寄せてくる事は減ります。
つまり、「100点満点を目指すか(メーカー)」、「及第点でコストを抑えるか(独立系)」の違いです。 どちらも「嘘」はついていません。持っている定規が違うだけです。
■整理:あなたが契約で「買っているもの」の正体
これを踏まえて、管理組合・オーナー様が契約で「何を買っているのか」を整理します。 両者の違いを一言で言えば、「安心を丸ごと買う」か、「選択の自由を買う」かです。
1. メーカー系契約の本質=「安心を買う保険」
高い点検費用の正体は、技術料というよりも「判断代行手数料」です。
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判断の主体: すべて業者にお任せ。基本的には報告書上に特記事項がない状態を理想としている。
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メリット: 理事会が技術的な判断をする必要がない。万が一の事故でも「メーカーに任せていた」という説明責任が果たしやすい。
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デメリット: 費用が高額になりがち。「まだ使える部品」であっても、マニュアル通りに交換提案されるため、オーナー側に「待った」をかける余地が少ない。
2. 独立系契約の本質=「選択権を買う実務」
安い点検費用の理由は、経営判断(いつ直すか)をオーナー側に委ねているからです。
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判断の主体: 自分たち(管理組合・オーナー)。特記事項が常に残ったまま運用になることが多い
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メリット: コストをコントロールできる。「不具合はあるがまだ致命的なレベルではない、限界まで交換判断を待てる」といった柔軟な予算組みが可能。※危険度の高い不具合は、独立系であっても必ず強い是正提案が出ます。
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デメリット: 予算配分とリスク許容を自分たちで選ぶ形になる 業者の提案が正しいか見極める「目利き」が必要になる。
メーカー系が高いのは、単なるブランド料ではありません。 「次に何の部品交換が必要か」という難しい判断を、プロが代行して責任を持ってくれる保険料が含まれているとお考えください。
一方、独立系へ切り替えるということは、その判断の主導権が管理組合側に戻ることを意味します。

「※FM契約の部品保証範囲は業者により異なります。主要部品を含むか確認が必要です」
■一番危険なのは「覚悟なき切り替え」
私が現場で見てきて、最も不幸なトラブルになるのは以下のパターンです。
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「中身(責任の所在)」が変わったことを理解せず、ただ「安いから」と独立系へ切り替える。
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以前と同じ感覚で「点検業者にお任せ」のスタンスをとる。
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いざ部品交換が必要になった時、「本当に必要なのか?」と判断できず揉める。
独立系業者は「提案」はしてくれますが、最終的なGOサイン(予算執行)を決めるのはあなたです。 「判断材料」を持たないまま切り替えるのは、ブレーキのない車に乗るようなものです。
■【判断】あなたのマンションはどちら向きか?
以下のチェックリストで、現状の管理体制がどちらに適しているか判定してください。
【A】メーカー系継続がおすすめ
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理事会役員は1年交代の輪番制で、設備の知識がある人はいない。
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「何かあった時」の責任追及を避けたい。
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コスト削減よりも、決定までのプロセスの時短や「メーカー純正」の安心感を優先したい。
【B】独立系への切り替えがおすすめ
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理事会が機能しており、長期的な修繕計画を自分たちでコントロールしたい。
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「まだ使える部品を捨てるのはもったいない」と明確に感じている。
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業者からの提案を精査し、自分たちで「交換・延命」を決める手間を惜しまない。
■【B】を選んだ方へ:対等に渡り合うための「判断キット」
もしあなたが【B】の独立系を選ぶ、あるいはメーカー系相手でも対等に交渉して減額を勝ち取りたいとお考えなら、「業者の提案が適正かジャッジする基準」が必要です。
「交換が必要です」と言われた時、 「数値に基づいて、あとどのくらい持ちそうかセカンドオピニオン的な質問ができるようになる」
これだけで、数十万円の無駄な支出を防げるケースが多々あります。
そのために必要な、現場レベルの具体的な判断材料をまとめました。
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リミットスイッチ等の「本当の寿命サイン」
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点検報告書の「経年劣化」「要交換」の裏読みマニュアル
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現場で行われている「延命処置」の具体例
これらは、専門知識ではありません。「数万円〜数百万円のコスト判断を自分でするための資料」です。「コストの主導権を自分たちで持つ」と決断された方は、ぜひこの資料を議事録代わりにお使いください。
関連リンク
前回の現場からの一次情報はこちらです。
【現場の告白】なぜ、機械式駐車場は「やめ時」を見失うのか? 修理見積もりが招く構造的な罠
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